特集 DSM-5からDSM-5-TRへ—何が変わったのか
特集にあたって
鈴木 道雄
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1富山大学学術研究部医学系神経精神医学講座
pp.1337
発行日 2023年10月15日
Published Date 2023/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207089
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DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)のテキスト改訂版(text revision)であるDSM-5-TRが2022年に出版された。2013年にDSM-5が出版されてからの9年間における精神医学研究の知見を盛り込んだ改訂である。日本語訳は2023年6月に出版されている。テキスト改訂版の性質上,改訂の中心は各疾患についての詳しい説明(テキスト)の部分であり,診断分類や診断基準の変更などは基本的に行われていない。しかし,例外として,「心的外傷およびストレス因関連症群」に新たにprolonged grief disorder(遷延性悲嘆症)が追加され,「臨床的関与の対象となることのある他の状態」にsuicidal behavior(自殺行動)およびnonsuicidal self-injury(非自殺性自傷)のコードが追加された。また,他の多くの診断基準にも明確化のために小改訂がなされた。序文に書かれているように,各疾患のテキスト部分の改訂は広範囲に及んでおり,中でも「有病率」「危険要因と予後要因」「文化に関連する診断的事項」「性別に関連する診断的事項」「自殺念慮または自殺行動との関連」「併存症」の項目がアップデートされている。また,人種主義・差別の体験などの危険因子や,非差別的な用語を使用することに対して,適切な注意が払われるように配慮がなされている。
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