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我が国では,2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)が施行された。それ以来,この法律に基づき戸籍上の性別を変更した人は約1万人に達するという。性同一性障害(gender identity disorder)の名称は,DSM-5では性別違和(gender dysphoria)となり,ICD-11では性別不合(gender incongruence)となった。これらの医学用語とは別に,多数派とは異なる性の要素を持つ性的マイノリティを表現するものとして,LGBTやLGBTQ+,トランスジェンダーなどさまざまな呼称が用いられている。また,性的マイノリティをも包含する共生社会の思想の普及とともに,「性同一性障害」を疾患とせず,sexualityにおける多様性の表れとする考えが一般的となっている。DSM-5では精神疾患に含まれていた「性別違和」が,ICD-11では「性別不合」として,第6章「精神,行動および神経発達の疾患群」ではなく,第17章「性の健康に関する状態群」に含まれるに至った背景にも,疾病性に対して多様性,病理化に対して脱病理化を主張する共生社会や人権尊重の流れが指摘されている。このような多様性とインクルージョンの意識の高まりの一方で,性的マイノリティの人は日常生活においてさまざまな生きづらさを経験しており,メンタルヘルスの不調に陥ることが少なくないことも注目されている。また,「性同一性障害/性別違和/性別不合」に対して,ホルモン療法や外科的治療が行われる場合に,その入り口である診断を行うことは精神科医の役割である。このような状況下で,精神科医療に従事する者が性的マイノリティの人に向き合うために,ジェンダーをめぐる諸課題を整理し理解することは重要と思われるので,本特集を企画した。
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