特集 精神疾患・精神症状にはどこまで脳器質的背景があるのか—現代の視点から見直す
特集にあたって
鈴木 道雄
1
1富山大学学術研究部医学系神経精神医学講座
pp.353
発行日 2024年4月15日
Published Date 2024/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207229
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精神医学の歴史において,ある疾患の脳器質的病因が明らかになり,診断や治療の道筋が明確になると,その疾患は主要な精神疾患の分類から除外されてきた。梅毒性の精神障害はその典型であり,てんかんも脳神経内科の領域に移りつつある。さらに近年,若年者の急性精神病症状の原因の1つとして抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫機序が見出されるなど,精神疾患の新たな脳器質的病因が解明される事態も生じている。また,脳画像研究や定量的な神経病理学的研究により,統合失調症などの精神疾患患者の脳における形態学的変化が再現性を持って報告されており,それらの変化は細胞脱落を伴わないシナプスや髄鞘の変化を示唆している。遷延性の神経性無食欲症患者の脳にはアストログリアの増殖が認められることも報告されている。これらの所見は,それ自体の病因・病態における意義が問題となると同時に,精神疾患における脳器質的変化とは何かということをあらためて問うものであろう。そして高齢発症の統合失調症,妄想性障害,双極症,うつ病などには,脳器質的変化を背景とするような,若年者とは異なる病態生理が存在するのかを明らかにすることは重要な課題である。さらに,認知症の前駆症状としての行動変化が注目されるとともに,自殺など異状死を遂げた者の脳にプレクリニカルな認知症を示唆する病理変化が見出されることも報告されている。これらの知見からは,退行期から老年期の精神疾患の診断分類を,精神症状の背景にある脳器質的変化に基づいて整理していく必要性も示唆される。
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