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はじめに
厚生労働省の人口動態統計によれば,わが国ではがんによる死亡が2016年には年間37万人を超え,2013年に新たに診断されたがんは86万例を超えた。がんはわが国における死因の1位になっており,今後高齢化がさらに進むことから,がん医療のいっそうの充実が望まれているのは言うまでもない。このような中で,がんに罹患された患者・家族からは,身体的な苦痛の軽減のみならず,精神的な苦痛への対応が強く望まれており,がん医療に精神科医が積極的に参画していくことが求められている。
緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。がん患者とその家族が,可能な限り質の高い治療・療養生活を送れるように,身体的症状の緩和や精神心理的な問題などへの援助が,終末期だけでなく,がんと診断された時からがん治療と同時に行われることが求められており,緩和医療は決して終末期に限った医療ではないことが示されている。
せん妄は不安・抑うつとならんでがん医療において多くみられる病態である。せん妄は身体的な問題を背景とした脳機能障害としてみられる精神症状であるが,高齢化社会の進行した昨今,がん患者もおのずと高齢化してきていることで,せん妄のリスクはますます高まっていると考えられ,その対応は重要であると考える。
総合病院精神科のコンサルテーションリエゾンの業務において,せん妄を診療する割合は高く,とりわけ筆者らの所属する病院で行っている緩和ケアチームの活動や,緩和ケア病棟でのコンサルテーション業務においてかかわる患者は,進行・終末期がんの症例が占める割合が高いため,比較的回復可能性の高い術後のせん妄や,単一要因によるせん妄とは違い,こうした進行・終末期がんに生じたせん妄への対応には悩むことも多く,答えのない問題に日々直面し苦悩している。
本稿では,がん治療の初期ではなく,病状が進行した場面や,緩和ケア病棟でみられるがん終末期の場面においてみられるせん妄を対象にして論じたい。
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