Japanese
English
特別寄稿
目とこころ
The Eye and the Mind
島薗 安雄
1
Yasuo Shimazono
1
1国立武蔵療養所
1National Musashi Research Institute for Mental and Nervous Diseases
pp.1231-1240
発行日 1984年11月15日
Published Date 1984/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203859
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I.患者の精神状態と目
われわれは日頃の臨床にあたって,患者の表情・態度・しぐさをきめ細かく観察し,精神状態をとらえる有力な手がかりとしている。この場合,表情については,とくに目からの印象を重要なサインとして受けとめる。平井8)は彼の著書「精神科診断学アトラス」で患者の表情について語っているが,妄想をもつ分裂病患者を装った俳優の写真については,「ぼんやりしているようだが実は目つきがきつく,視線が固定している」と解説を加えている。Bleuler5)の精神医学教科書にはうつ病患者の上まぶた,内方3分の1に“Veraguthsche Falte”と呼ぼれるしわができ,沈うつな感情をもの語ることが図によって示されている。
目つぎやまなざしは患者にとっても大きな意味を持っている。図1は市橋ら12)が慢性分裂病患者の写生画の1例としてあげているものであるが,全体の描写が平面的で拙劣である中で,目が克明に描かれている点が強調されている。彼によれば,「眼の描写だけは多くの患者が不釣合なほど克明に描き,瞳孔まで描き込められている絵が多」く,これは人間の顔の各部分や身体の意味性が解体してゆく中で「まなざし」の意味性は最後まで保たれることのあらわれではないか,と考えている。宮本20)はムンクの人物像の「真正面向き」という特性に着目した論文の中で,横顔で目だけが正面を向く,Navratilのいうgemischtes Profilに一致した例を紹介し,この種の患者の心理的特徴について考察を加えた。市橋13)は慢性分裂病者の体験構造と描画様式の関係を論じた論文中に,この特徴を示す患者の絵の実例をのせている。
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