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I.はじめに
1.てんかん一般について
てんかんが人類の病の中でも古くから知られたものであることは周知の通りである。しかしその概念はさまざまで複雑である。現在はペンフィールド14)やジャクソンに従って,「てんかんとは反復して起る意識の変化とけいれん発作やその他の発作を主症状とする症候群で,中枢神経系の突発性の過剰放電を示し多く性格変化や精神症状を持つ」といったところがおおむね認められるところであろう。このようなてんかんの原因にはおおまかに言って真性,胎生期や周産期障害,外傷性その他があろう4)。この真性といわれる中に遺伝的なものを含むことがあり,坪井24)によると,てんかん患者の近親者中の罹病率は2.5〜8%くらいとされる。近年周産期障害が注目され,また外傷性のてんかんの増加もいわれている。因みにてんかんの出現頻度は,日本では報告によって異なるが,0.1〜1.08%(平均0.24%)といわれ,全国で約30万〜100万人の患者が推定されている。また発病年齢は乳幼児期と思春期にピークがある4)のも病因に発達の影響が強いことを示している。
2.てんかんの神経機構について7,14,16) さて上記のような原因で脳に障害ができ,何らかの理由で部分的に電気的興奮性が異常に高くなると,その部分がてんかん原焦点となる。この原焦点は病理組織学的に明瞭な場合もあれば,不明のこともある。実験的にもアルミナクリームなどで大脳の一部に原焦点をつくることが可能であるが,この場合,対側同名部位に容易に鏡像焦点が形成される。これらの原焦点部位の異常興奮が何らかの誘因で高まって,脳の他の部位へ興奮が伝播して,直接または間接にけいれんや意識消失などの発作を来す。
多くのてんかんでは,発作の誘因は不明とされているが,自然の感覚や情動で誘発される場合のあることが次第に判明しつつある4)。一方,てんかん原焦点を含めてけいれん準備状態は遺伝的素質や脳内の代謝が関係するとされるが,その実態は未だに不明のところが多い。てんかんの精神症状や性格変化も,おそらくこの準備状態なるものと何らか関係を持つのであろう。
ここでてんかんの定義に戻ってみると中枢神経系の突発性の過剰放電を示すといわれるが,これは現在は脳波によって表わされる。これについてはけいれん大発作や,小発作などのように臨床症状と脳波所見の相関もよく知られている。
このようなてんかん原焦点の部位や発作症状は実に多種多様で,臨床概念や名称はさまざまであった。これに対し,1969年に国際てんかん連合から,分類が提案され4),最近おおむねその線に沿った案が決定されようとしている。これによれば臨床発作型や脳波所見によってまず全般性か部分性かに分け,全般性でも初めから脳波上両側同期して出現するものを原発または一次性,初め局在している異常放電が全般化するものを続発または2次性と呼ぶ。一次性全般性発作の中にペンフィールドらの中心脳性発作が含まれ,その解剖学的脳部位として視床非特殊核や脳幹網様体を中心とした機能系が考えられて来た。しかし最近一次性全般発作の多くで帯状回などの皮質に障害が見出され,発作発現機構に皮質の主導と皮質下構造の組み合わせが考えられている3)。
さて上述したてんかん原焦点で,発作発射は如何にして起るか。ネコ大脳皮質のペニシリン塗布焦点において,アジモン・マルサンー派,ことに松本らはこれについて研究した。その報告によると1,10),ペニシリン焦点の神経細胞では発作性脱分極偏位(PDS)という大きく持続の長い脱分極電位がみられ,これによって細胞の発火(インパルス)が連続して発射される。この発射とその焦点近傍の皮質脳波が関係があるという。このPDSは細胞表面上のシナプスが広汎に興奮し,興奮性シナプス後電位(EPSP)が多く加重されることによるとされ1,15),さらに神経細胞樹状突起の電位がPDSに関係するとされる。一方,ディングルダインら2)は海馬錐体細胞でペニシリンの作用を研究し,正常にみられるEPSPとそれに続く抑制性シナプス後電位(IPSP)の内,ペニシリンではこのIPSPが抑えられる脱抑制の現象があることを示した。このIPSPはガンマアミノ酪酸(GABA)を伝達物質とする反回性抑制径路によるものとされており,GABAとペニシリン性てんかんの関係に大きい示唆を与えた。これらと全く別の皮質直流電位の多くの研究で細胞外液内K濃度の上昇と発作発射の関係がいわれている7)。いずれにしてもこれらの発作発射が一斉に同期して発火するためには,そのための神経回路が必要となる。一方,焦点部位の組織学的変化としては,神経細胞の脱落,樹状突起トゲの減少,グリアの増殖がいわれる4)。グリアがKイオンのバッテリーであるのはよく知られている。これらの組織病理学的所見と電気的現象の関係は今後の解明を必要とする。
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