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I.はじめに
われわれが烏山病院でいわゆるナイト・ホスピタル(NH)の患者第1号を送り出したのが昭和35年であったから,今年で17年になる。NHは何といっても精神病院のリハビリテーション(Reh)活動の中核であったし,今後もこの体制が当分続くであろうことは間違いない。初期の頃,自ら職親を開拓しつつ日本的中間施設の実験をはじめ営営として築き上げた苦労は,今日もなお全国至るところの病院で続けられている1)。NHの患者が労働基準法第9条の労働者であるかどうかの考え方は治療に当たる者の継続的苦労とは別に誠に気の疲れる問題である。このことはすでに昭和42年頃からやかましく論議され,43年8月には正式に労働省労働基準局長名で各都道府県基準局長あて通達(42基収第3650号)されたのであるが,その見解は「原則として法第9条の労働者には該当しないが,形式的に判断することなく,実態に応じ,使用従属関係の有無を判断し,もし使用従属関係が認められ労働に対価が支払われているときは労働者に該当する」というものである2)。しかし,われわれとしては入院患者である以上,院外個人作業療法とみなし,たとえ多少の報酬が得られたとしても,それは「作業の結果生じた収入は患者の勤労意欲を増進し,社会復帰を促進するといった治療効果を考慮して取扱う」という厚生省側の見解に同調してきた。同じく昭和43年8月,われわれはPSWの協力も得て,NHの発展によって発生するさまざまの問題点を詳細に検討報告3)したが,このなかでもこの問題にふれ,また関連すべき法規,諸制度のはなはだ不備であることを痛感しつつ,結論を中間施設を制度化する方向に持ち込んだのである。
その後10年近くの時が経過したが,この間80%もの病院がNHを実施しているという調査結果があるにもかかわらず,中間施設はもちろんわれわれの望むReh体系もあまり進まず,わずかに各地にRehセンターが設立される傾向がみられる程度である。ただ関連法規からいえば,精神障害者の人権とくにその労働権をめぐっていろいろ不利な条件を負わされているのが注目され,昭和47年には労働基準法第51条の精神病者の就業禁止規定が廃止されるに至ったことは,やはりそこに時の流れを思わせるものがある。一方労働安全衛生法第68条では,なお病者の就業禁止ないし制限を労働省令で定めるとしているが,これは単に「精神分裂病,躁うつ病,麻痺性痴呆その他の精神病の患者であって就業が不適当なもの」を禁止とし,「患者で自傷,他害のおそれのある者」を就業不適当とするという極めて当たり前の常識的な政令にすぎない。
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