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I.はじめに
他の精神障害者と同様にアルコール症患者の場合も,その回復あるいは社会復帰のためには,急性期に対する医療と同時に再発予防および社会復帰をめざしたアフター・ケアが不可欠であることはいうまでもない。アルコール症の場合も,その慢性的な発展過程において,精神的身体的な医学的問題のみならず,同時に家族関係の歪み,失職や職場での信用の失墜,子供の教育上の問題など,数多くの社会経済的問題が派生してきている。これら諸問題がさらに患者の飲酒を促がす誘因となって悪循環を形成しており,たとえ通院または入院治療によって医学的には一旦軽快しえても,これらの問題が解決されなければ,到底この悪循環を断ち切ることは困難である。そのためには病院医療をも包含する幅広いcommunity-centeredなケアがどうしても必要である。すなわち地域における長期間の一貫した持続的援助が体系化されてこそ,アルコール症患者の再発予防,社会復帰が可能になるといえる。
Community psychiatryがわが国に紹介されてからすでに久しいが,実際には今日までほとんど根本的に改善されることなく過ぎてきたわが国の精神科医療制度のもとでは,community psychiatryの実践は遅々として進まず,むしろごく一部の医療機関や保健所などの医療衛生関係者の個人的な関心と熱意に支えられて細々と実践されているのが現状であろう。このようなわが国の現状の中で,幸いアルコール症治療は比較的systematicに発展してきたといえる。それは,アルコール症の場合,断酒継続という共通の治療目標があり,これに有効な断酒会組織が大きく発展し,再発予防に貢献してきたからである。昭和38年全日本断酒連盟が結成されてからは,各地で回復アルコール症患者からなる断酒会が次々に誕生し,現在では全国に100を越える断酒会が組織され,昭和49年の現会員数は1万7千名と報告されている1)。さらに幸いなことには,わが国の場合,アメリカと違って2),最初から断酒会と医療者との協調は比較的円滑に進み,その連携が今日のアルコール症治療の発展をもたらしたといえる。
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