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一般医学教育のカリキュラムにおいて精神医学が従来占めてきた役割は決して大きいものではなかった。わが国の例でも,3年,4年生のときに教授されるにすぎないが,精神医学がかつてのAnstaltpsychiatrieの狭いわくを破つて,社会精神医学にまで及ぶ人間の精神行動の一切の障害を取扱う精神医学,あるいは更に心身医学にまで入り込む広大なものに変貌しつつあるとき,大学医学部における精神医学の教育カリキュラムが昔のままであつてよいかどうかには大きい疑問がある。アメリカではアメリカ精神医学協会の要請にもとずいて数年前から改革が行われたようである。この改革案の委員長であつたProf. Whitehornと私は親しく話し合う機会をもつたが,アメリカの医科大学の大部分では精神医学の講義は1年生から課せられ,4年間つづく。詳細はPsychiatry and Medical Education 1952という本にある。私もアメリカから帰朝して,取り敢えず2年生から医学的心理学という課題で精神医学に親しませることにした。
フランスではまだ事実上の改革は行われていないらしいが,Evolution psychiatriqueのグルウプで1957年12月8日の例会の際,満場一致で,医学教育の中にun enseignement de psychologie adaptéà la formation du médecin(医師の教育に適応した心理学の教課)を導入して欲しいという請願書を採択した。Société médicopsychologiqueでも投票によって同様の請願をすることを決定した。同様にフランス心身医学協会も1958年の5月に開かれたシンポジウムの際に「医学教育の改革に際し,基礎科学の資格で,人間科学,心理学および社会学の研究が加えられることが必要である」という請願を満場一致で可決した。このようにして精神医学に関係のある各団体から同じような趣旨の請願が相次いで出されているので,政府当局によつて速かにこれをとり上げて貰いたいと皆が要望している。
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