オピニオン 精神科医にとっての精神療法の意味
日常の面接で何を聴き,話し,残すか
中尾 智博
1
1九州大学大学院医学研究院精神病態医学
pp.832-834
発行日 2013年9月15日
Published Date 2013/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102545
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精神療法という言葉の持つ意味
精神療法という言葉は,日常的に聴き,使う言葉なので普段意識をしていないが,精神療法の意味とは何か,という問いに正面から向かい合うとその言葉にはにわかに霞みがかかり曖昧な雰囲気がまとわりつく。そもそも精神療法には効果があるのか。1時間に5人,10人と患者を診ないとやっていけない状況でも「精神療法をしています」と胸を張れるのか。単にレセプトを飾る言葉なのか。患者や一般人からみればそのようなものは単なる“普通の”診察に過ぎず,患者が求める“カウンセリング”とは全くの別物ではないか。
そう考えると,“系統的な”精神療法を生業にする精神科医の立ち位置は応分に恵まれたものと感じる。十分な時間をかけ,きちんとした理論の元に実践する。一定のセッションを重ね,紆余曲折を経ながら治療は展開し結末を迎える。患者はその効果に満足を得れば対価を支払う。治療者は相応の報酬と自己達成感を得る。かくいう筆者も行動療法家の端くれであるが,専門領域の患者を相手にフォーマットに基づいた治療をしている時は,たとえその治療が難渋している場合でもどこかほっとしたものを感じながら実践しているのである。精神分析療法も森田療法も家族療法も認知行動療法も,独自の信念と理論を有し,スーパービジョンを行い,学会を開催し,その専門性を高めていく。系統的精神療法はやはり我々精神科医を精神科医たらしめる絶対的アイデンティティなのである。
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