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はじめに
心身の発達の障害は,「発達過程が初期の段階で何らかの原因によって阻害され,認知,言語,社会,運動などの機能の獲得が障害された状態11)」と医学的には理解される。心身の発達の障害は,現在の医学診断としては,脳性麻痺,知的障害,広汎性発達障害などの多様な診断を含む概念である(このような障害を持つ子どもを本稿では「障害児」と呼ぶ)。障害児の概念は,主として医学の発展の中で徐々に構築されてきたものであるが,心身の発達の障害に相当する状態自体は古代から認識されていて,新村によれば,日本書記における伊邪那岐・伊邪那美の神婚により生まれた水蛭子が,わが国最古の「不具」未熟児(障害児に相当)記載であるという12)。平安時代初期に編纂された,わが国最古の仏教説話集である「日本霊異記」にも,障害児が登場する説話が存在し,中巻第三十,第三十一,下巻十九などが例として挙げられる5)。
一方,エンパワメントとは,パワーレスの状況にある人がパワーを発揮するために,個人や社会などのさまざまなレベルで,その人の潜在的な力を強化したり,抑圧的な社会や環境を変革したりする支援の姿勢である7)。1960年代の米国の社会変革運動の中で誕生した概念で,わが国では1995年頃から普及し9),現在では医療・福祉などの分野において,支援の姿勢として重要なものとなっている。
本稿では,日本霊異記の中巻第三十,第三十一の両説話における障害の発生論を検討したうえで,エンパワメントの観点を交えて考察したい。本稿の目的は,過去の文献を主体的にとらえなおすことにより,現代の障害児支援に寄与する示唆を得ることである。この目的を持ちながら,論を進めることにする。
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