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2年前に施行された裁判員制度の現状の問題点と今後の課題をテーマとした特集「裁判員制度と精神鑑定」に,裁判員制度に直接かかわっておられる先生方から珠玉の論文をお寄せいただき,こころから感謝申し上げたい。裁判員の方々が職業裁判官以上に被告人の社会復帰後の更生や治療に興味を持たれているという報告や,一般の方々が妄想などの用語を誤ったイメージで受け止める可能性が高いという指摘,検察側の鑑定留置と違って弁護側からの当事者鑑定は一般面会と同じ扱いであるという現実,責任能力判定の前倒し判断を検察だけで実施しているとの問題提起など,非常に示唆に富む情報に溢れている。編集子も含めて精神科医療従事者は,もっと司法精神医療と刑事訴訟についての正確な法律知識を持つこと,ならびに日常的に司法関係者と情報交換することの重要性を,本特集を通読し痛感している。加えて,進行中の司法改革に精神医学界が精神科医療改革の一環として取り組むべきであるとの思いを新たにした次第である。
一方,わが国の重点医療施策として2004年に閣議決定された,がん,心疾患,脳血管障害,糖尿病の4疾病に,来年度から精神疾患が加えられる可能性がきわめて高くなり,これらの5疾病が各都道府県の医療計画にも反映されることになる。十数年に及ぶ超高水準の自死既遂をみても,東日本大震災での経験でも,人々のこころに巨大なマグニチュードで襲い掛かる心的負荷をケアできるような地域の絆とアウトリーチの必要性が広く認識されているので,この決定は当然であり,WHOは十数年前からがん,循環器疾患,うつ病を政策提言しているので,遅きに失したといえる。しかし,医療計画に精神科が提言できる機会はこれまで皆無であったことを考えると,good practiceや求められる精神科医療水準について提言できるチャンスが来たことになる。本号の巻頭言では,東日本大震災に関連し,児童のメンタルヘルス体制の構築と乳幼児健診時の自閉症のスクリーニングの実施などの必要性が指摘され,研究と報告では自死の実態調査から,高齢男性のうつ病で自死未遂歴のある方々や自死関連行動を示したケースのフォローアップ体制の構築の必要性が報告されており,これらの指摘が今後の精神科医療計画に反映されるように関係各位にお願いしたい。その媒体として本誌が活用されることをこころから祈念し,ご投稿をお待ちしている。
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