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本号に掲載されている「巻頭言」,「研究と報告」ならびに「短報」などに共通したキーワードは「必要な方々への適切な医療の提供」ということで一貫している。このように臨床での経験に根差した玉稿が集まり,また読者の反響の指標である「Letters to the Editor」も活発になっていることに改めて感謝したい。この適切な医療の提供のためには個々人の治療反応性や副作用出現リスクに基づく治療ガイドラインの作成が必要となり,日々の臨床経験を蓄積したエビデンスの構築が必須であるが,現状でのエビデンスの大半はグローバル製薬メーカーの臨床治験データである。感情障害の治験を考えてみると,双極性障害が除外され,重症で同意能力を欠く患者ならびに自殺リスクのある患者も除外され,年齢は18~65歳に絞って実施された治験であるため,一般臨床での個別医療への適応には制限がつくことになる。
また,うつ病での臨床治験ではplaceboの有効率がしばしば高く,薬効から除外されるので,臨床治験結果をエビデンスとして蓄積する場合に考慮が必要となる。しかし,このplacebo効果は脳科学における最近の重要な研究課題の1つになっており,薬物療法によるうつ病での臨床効果に関連して変化する脳部位と変化の様相はplaceboによる効果と類似しており,精神療法による効果とは類似点と相違点を有するという興味深い成績が報告され,placeboの効果が必ずしも精神療法の効果と同様ではないことを示唆している。また,大脳基底核病変を有する神経疾患にもplacebo効果があることが報告されている。したがって,治療に参加している当事者の不安や期待・信頼などに関連する脳内の機序による影響が大きいことになり,実薬の効果の評価を低めるものではない。もし,placebo効果の高い群と低い群の見極めが可能となれば,自分の脳内機序によって自力で回復しつつある群を特定でき,実薬の使用を早期に減量中止することも可能となる。
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