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特集で精神医学研究の進歩を専門分野ごとに数年おきにまとめて記録に残すことは精神医学・医療の発展に不可欠であり,本誌がこの企画を今後も計画的に継続していくことが必須であるという想いがこの特集の原稿を拝読して一層深くなった。今回の特集,「内因性精神疾患の死後脳研究」は長年直接研究に従事してこられた方々によるレビューであり,微細な器質的病変が想定されながらも近年まで見出されてこなかった統合失調症の微細な器質異常や機能性精神障害と考えられてきている気分障害の神経細胞構築や血管の変化の詳細な実態が明らかにされている。この精緻なレビューが知識の整理と今後の研究に活用されるばかりでなく,他の分野への影響も計り知れないはずである。疑問点やご意見があればLetters to the Editorにお送りいただきたい。
個々の症例の臨床症候を良く診ないで,マニュアル的な診断に終始した臨床データベースに基づく診断マニュアルも治療ガイドラインも怪しくなるという,巻頭言で指摘されている危惧は,その診断基準で行われた研究成果にも及ぶことになり,さらには,現在のICD-XIやDSM-Ⅴの改定議論にも及ぶことになる。なぜなら,DSM-Ⅳでは気分の変動が認められると,たとえシュナイダーの一級症状があっても精神病症状を有する気分障害と診断することが可能であり,この基準で診断された臨床データをもとに神経病理,脳画像,遺伝子解析研究などが実施されている。わが国ではDSM診断に基づきながらも,まだ,臨床精神病理学に依拠する従来診断が併用されていることが多いので,DSMよりも狭く診断されている可能性がある症例を対象に,精神疾患についてのバイオマーカー研究が推進されている可能性がある。ドイツでこのような議論が起こっていないのか,寡聞にして承知していないが,DSM一辺倒とも聞くので,わが国で行われた研究成果をICD-XIやDSM-Ⅴに是非反映させる運動を起こしたいものである。
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