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本誌編集委員を長年お勤めいただいた,敬愛する臺 弘先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。本号の巻頭言を拝読し,一昨年白寿を迎えられた臺先生がその祝会で,「内村祐之先生からの宿題は統合失調症の治癒例をみることであったが,70年以上診療に携わって,治癒例をみることができて,内村先生に報告できる」と振り返られたことを思い出した。統合失調症の当事者の生活のしにくさやその回復に焦点を当てた生活療法ならびに精神科薬物療法との組み合わせによる,臺先生の人生をかけた精神科医としてのお仕事が下田先生の「統合失調症は精神科医があきらめない限り治り続ける」というお教えと共鳴し,西園先生の「慢性統合失調症に対する多職種の協働での精神療法的アプローチ」の実践とも通じ合っていると思い至り,先達の先生方の統合失調症に対する取り組みにあらためて感動した次第である。本年4月の診療報酬改定では,入院中から地域移行への過程での多職種の協働的アプローチがようやく保険点数化された。一方,治療抵抗性統合失調症外来指導管理料の新設を要望したが,保険収載は見送られた。しかし,厚生労働省は難治性精神疾患地域連携体制整備事業を平成26年度から開始した。このように先達のご努力がようやく国の施策として動き出している。
本号の特集は「大学生のメンタルヘルス―保健管理センターのチャレンジ」である。大学の保健管理センターは大規模校でも数人の教授しかおらず,独立部局ではなく,学長などが形式的に管轄する組織であり,結核などの身体管理が中心であったが,近年,メンタルヘルスが中心的な課題となっている。文部科学省は障碍者の差別解消を図るべく,視覚障害や聴覚障害の学生への支援活動を推進し,各大学も積極的に対応しているが,精神疾患,とりわけ,うつ病や広汎性発達障害の学生への支援はどの大学も苦慮しており,精神疾患の診断のついていない休学留年生や自殺企図学生への対応を迫られている。本特集では種々のチャレンジを実施している保健管理センターからの貴重な報告をしていただいた。キャンパス・ソーシャルワーカー制度やキャンパス・精神科デイケア,ピアサポート制度などが普及して,さらに発展していってほしいと願わずにはいられない。
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