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今日の精神科医に求められる薬物療法の知識
好評だった『臨床精神薬理ハンドブック』が6年たち改訂され,第2版となり発行された。一つのまとまった書籍が6年後に改訂されることは一般的にはやや早い印象もあるが,臨床精神薬理の分野を網羅的に解説した教科書は多くはなく,またこの領域の進歩は速いので,この改訂は時宜を得たものであろう。
さて,本書の構成はオーソドックスなもので,中枢神経の情報伝達,薬物動態,研究手法など基礎的事項の解説からなる第Ⅰ編と,疾患ごとに章立てされ,各章の中でその主要な治療薬の薬理と治療の実際が解説される第Ⅱ編からなっている。今日,精神疾患の単位とその治療薬の対応関係は一対一の関係ではなくなりつつあるので,次の改訂では実際の治療は別のパートとなることが求められることになろう。このように,精神薬理学の書籍の構成は簡単ではなく,すべての領域・階層を網羅的に解説しようとすると,生理学・生化学,研究手法,倫理学などの関連学問から,基礎的な精神薬理学,臨床精神薬理学,さらには疾患ごとの標準的薬物療法までの包括的な記述が必要となり,本書はB5判,448頁の標準的な教科書サイズであるが,おそらくはこの数倍のページ数となることが予想される。実際海外にはそのような大部の書物も存在する。したがって,本書に専門書としての精神薬理学のすべてを求めることは編者の意図とは異なることになり,本書の価値はまさに「ハンドブック」であることであり,その意味では最良のハンドブックに仕上がっているのである。すなわち,精神疾患の薬物療法の初学者がある疾患の治療法の概略を知りたいとき,臨床医が知識を再確認したいとき,本書は価値を発揮するであろう。
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