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まず本書の成立の経緯から説明すべきかもしれない。1999年3月,名古屋市立大学医学部において,同大学精神医学講座,濱中淑彦教授(現名誉教授)の主催で2日に渡り本書と同名のタイトルで精神医学史の国際シンポジウムが開かれた。西暦2000年を間近に控えた世紀の変わり目ということでつけられたタイトルだと思うが,会期中に行われた発表や討論はこのタイトルに負けないすばらしい内容だった。ヨーロッパ,アメリカ,アジアの各国から参加したシンポジストたちが提示した研究成果は,西洋と東洋における精神医学の営みをさまざまな視点から振り返ったもので,2日間のシンポジウムは全体として通時的にも文化横断的にも非常に興味深い試みだったといえる。
本書はその結晶である。内容は三部に分かれ,それぞれ西洋,東洋の精神医学史,社会・文化的脈絡における精神医学史について数篇の論文が収められている。寄稿者たちはいずれも精神医学史の第一線で活躍中の優れた研究者であり,彼らが一堂に会したこのアンソロジーはそれだけでも価値が高いと言わねばならない。加えて各論文のテーマがきわめて興味をそそられる種類のものである。本書の論文はすべて英語で書かれているが,たとえば第一部の「西洋」に所収の表題を和訳して紹介してみる。「ガレノスの精神医学」(V.Barras),「パラケルススと精神医学」(H.Schott),「イマジナティオ/ハルシナティオ(F.プラッター)からアリュシナシオン/イリュジョン(J.-E.D.エスキロール)へ」(T.Hamanaka),「ピネルとフランス精神医学の始まり」(J.Pigeaux),「エミール・クレペリンの臨床精神医学の概念」(P.Hoff),「精神医学の言語とその歴史」(G.E.Berrios)といったテーマ群はおそらく,西欧の精神医学史に興味を持つ人だけではなく,およそ精神医学に携わる人すべてにとって見逃せないものだろう。
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