書評
―Robert L. Spitzer,他著/高橋三郎,染矢俊幸訳―DSM-IV-TRケースブック―コンパクトにまとめられた症例で,精神科診断学を整理
武田 雅俊
1
1大阪大学医学系研究科/プロセシング異常疾患解析学
pp.1017-1018
発行日 2003年9月15日
Published Date 2003/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100743
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本書はDSM-Ⅳ-TRの改訂にあわせて出版された症例集である。成人145症例,小児および青年期37症例,多軸評定のための症例10症例,世界各国からの21症例,歴史的22症例の合計235症例が記載されている。ご承知のように米国精神医学会は,1980年にDSM-Ⅲ,1987年にDSM-Ⅲ-R,そして1994年にDSM-Ⅳを発表してきており,2000年にはDSM-Ⅳ-TRとしてテキストが改訂されたが,この改訂にあわせて出版された症例集が本書である。収められた235症例のうち42症例はDSM-Ⅳの改訂時に加えられたものであり,本症例集で新たに加えられた症例はなく,考察が一部分改訂されている。
他の診療科と比べても精神科の症例呈示は難しい。必要十分な情報をコンパクトにまとめるという課題は時として困難であり,豊富な知識と十分な経験とがあって初めて可能となる。初学者の頃,症例を呈示するときに,どこまで詳しく記載するかを悩みながら,なかなかコンパクトにまとめることができなかったことを思い出す。コンパクトにまとめるという作業は,「この部分を割愛しても大きな間違いが起こらない」との判断に基づいて行うが,このような判断を下すためには,精神科の疾患全体についての包括的な知識と,同僚の精神科医のレベルについての理解とが必要である。このような条件を満たした症例呈示のモデルが本書には多数示されている。本書を通じて,症例呈示の仕方を学ぶことができる。
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