書評
―山鳥重著―脳のふしぎ―神経心理学の臨床から
松岡 洋夫
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1東北大学大学院精神神経学分野
pp.1015
発行日 2003年9月15日
Published Date 2003/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100741
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本書は,著者が1975年から2002年の間に主に一般向けに書かれた神経心理症状などの解説29編を一冊にまとめて発刊されたものである。本書を著した意図や著者の神経心理学に対する姿勢については,「はじめ」の中で明瞭に示されている。特に,著者の神経心理学に対する姿勢に関してその一節を紹介すると,“...脳損傷にも神経心理症状にもいっぱいの個体差を抱えた中で,神経系心理症状発生の共通原理を探り,そうした困難な障害を抱え込んでしまった人たちの心をなんとか理解し,治療の方向づけをしたい,というのが筆者の実践してきた神経心理学である...”と,さらに“...脳が生み出す心などと言うと,脳に重点がかかっているように思われるかもしれない。そうではない。重点は心にある。脳全部で,いや脳を含めて個体全部で必死に環境に反応しようとしている心という現象を理解したい,ということである...”と述べられている。
本書は,Ⅰ.読み書きのしくみ,Ⅱ.話し言葉のしくみ,Ⅲ.視覚のしくみ,Ⅳ.記憶のしくみ,Ⅴ.行為のしくみ,Ⅵ.心を立ち上げる脳,Ⅶ.心の科学とモノの科学,と神経心理学が扱う重要なテーマをすべて含んでおり,それぞれの領域の歴史も紹介されている。しかし,それらは決して教科書的な内容にとどまるものではなく,著者自身が症例と出会いその中で見えてきたものを固定概念を極力排して著者自身が考えたことを語りかけている。時には,著者流の解釈が登場してくるがそれは決して独善的なものではなく深い含蓄のこめられたものであり,冒頭で紹介した著者の意気が伝わってくる。
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