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はじめに
重篤な症状を有する弁膜症の患者に対し,症状の改善を目的として弁置換術を施行することに対しては,現在異論がない。弁置換術が合併症を伴うことなく成功した場合には,代償性の左室肥大ならびに拡大は消退し,左心機能の改善がもたらされる。また細菌性心内膜炎における感染ならびに心不全のコントロールに対しても,弁置換術は有力な治療法である。しかし,最近では,弁置換術の成績向上に伴い,自覚症状を欠く症例,または軽度の自覚症状を有する症例に対し,左室心筋機能の保全を主たる目的として,弁置換術を行うことの是非が論じられるようになった。Bonchekら1)は,術後の長期生存率は,術前の病歴の長さと,内科治療への反応の良否によるとし,内科的にコントロールできなくなるまで外科手術をひき延ばすことは賢明でないと述べ,早期の弁置換を提唱している。早期の人工弁置換が心筋を保護し,長期予後を改善するとの考え方である。それに対し,Fowlerら2)は,いまだ手術による死亡率が6〜8%を示し,人工弁による合併症の頻度も無視できない現在,人工弁置換術は,NYHA III度以上,進行性の臨床症状の悪化がある,または心胸郭比の増大の進行を認める,などの症例に限るべきであるとしている。本稿の主題である術後心機能は,①自覚症状または運動耐容能の改善,②長期生存率の改善,③左心機能の改善の程度,によって評価されるが,術後心機能は,Table 1にかかげる如き多数の因子によって左右される3)。手術手技,人工弁の差などはこのような因子の一つにすぎない。患者個人の背景4),Health Care Delivery Factors(患者をとりまく医療環境,Table 2)が術後心機能に多大な影響を及ぼすことはよく知られている事実である。
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