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日本テレビの日曜夜8時に「特命リサーチファイル200X」という番組がある.ここで「ヒトはなぜアがる?」という企画のもとに,私が5〜6年ぐらい前から唱えてきた仮説が取り上げられた.坐禅の呼吸法を実践し続けると,脳幹の縫線核にあるセロトニン神経が鍛えられ(活性化され),その生理作用が坐禅によってもたらされる効能とよく対応する,という仮説,すなわち「坐禅のセロトニン仮説」である.セロトニン神経の活性化は,交感神経と体幹の姿勢筋を適度に緊張させ,身体を一種の準備状態(坐禅の平常状態)にさせる.他方,セロトニン神経は,パニックや不安で興奮する青斑核のノルアドレナリン神経に対して抑制作用を発揮する.また,脳内セロトニン濃度をSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)などで上げると,欝状態,不安,パニック障害などが改善する.したがって,セロトニン神経を鍛えるということは,心を平常状態(平常心)にする.更に,セロトニン神経のユニークな特徴は,それを活性化するのに,リズム性運動が唯一の方法である,ということである.呼吸は典型的なリズム性運動である.これを自らの意思で積極的に繰り返すことによって,セロトニン神経が鍛えられる.これが,私の仮説の概略である.
この仮説は,マルセイユで国際シンポジウムがあった折に突然に着想されたものである.この会議で,私は,睡眠時無呼吸の生理的な発生機序にセロトニン神経が関与することを発表する予定にしていた.その準備のために,セロトニン神経に関する論文を全般的にかなり広く読み込んでいた.ところが,読めば読むほど,セロトニン神経の全体像,生理的意義が分からなくなっていった.そんな思いを引きずったままで旅行していたことと,もう一つ,異国の地にいると自然に日本を意識するのかもしれない,突然,坐禅とその呼吸法がセロトニン神経の働きとよく対応するという考えが,閃いた.帰国してから,坐禅に関する書籍を読み漁った.古い書籍ほど示唆に富んでいた.道元も,さらには釈迦にまつわる本も役に立った.
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