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はじめに
リハビリテーション(以下,リハ)では運動療法がよく利用されるが,それは,障害された神経・筋に働きかけて,あるいは,患部の血流や代謝を上げて,機能回復を図ることに主眼がある.しかしそれだけではなく,運動,特に,リズム運動を繰り返し実行すると,脳幹のセロトニン神経が活性化されて,メンタルヘルスを含めたさまざまな生理心理機能にも影響を与える.本稿では,セロトニン神経の特徴と活性化の方法について,自験データをもとに解説する.
セロトニン神経について詳しく述べる前に,セロトニン(5-HT)という物質について概略を述べておこう.セロトニンは血管平滑筋を収縮させる物質として1948年に発見された.名前の由来はserumとtoneからきていて,血管の緊張を調節する働きにある.この作用は今日,片頭痛の発症メカニズムとの関連で注目されている.セロトニンはさまざまな臓器で合成されるが,体内5-HT総量の90%以上を占めているのは消化管であり,その働きは腸の蠕動を亢進させることにある.
他方,脳内にもセロトニンが同定され,その役割は,当初,睡眠と関連づけられたが,その後の研究で,睡眠ではなく,むしろ覚醒に関連する脳内物質として確立されてきた.覚醒に関連するとはいっても,その活性化因子はユニークであり,歩行,呼吸,咀嚼などのリズム運動である.私たちは,このようなセロトニン神経系の特性に着目して,呼吸のリズム運動として座禅,読経を,また咀嚼のリズム運動としてガム噛み,歩行のリズム運動としてウオーキング,自転車漕ぎを取り上げて,研究してきた.
セロトニン神経がもたらす生理作用としては,覚醒だけではなく,意欲や集中力などのメンタル面,自律神経調節,鎮痛,姿勢筋・抗重力筋の促通,などが知られている.上記のリズム運動がセロトニン神経を活性化させて,これらの諸機能に与える影響についても紹介する.
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