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はじめに
歯科治療やその他の原因によって細菌が体内に侵入し,心臓弁に感染が成立した後,弁膜および弁輪に感染巣(細菌性疣贅;vegetation)を有する菌血症・敗血症状態に患者が陥った病態を感染性心内膜炎(IE;infective endocarditis)と呼ぶ.弁膜に起因菌が付着・増殖し感染巣が形成されると,その感染巣周囲にフィブリンや血小板が取り囲み,血流から保護された形で感染巣が増大していく1).感染巣の拡大により弁破壊・弁輪膿瘍が生じ,場合によっては僧帽弁の感染巣が大動脈弁まで波及したり,逆に大動脈弁の感染巣が僧帽弁まで波及する.更に感染巣や破壊された弁組織の一部が脳梗塞をはじめ全身諸臓器の塞栓症状を生じたり,末梢動脈において細菌性動脈瘤(mycoticaneurysm)を形成し破裂する.
感染性心内膜炎を疑った場合は可及的早期に起因菌の同定と薬剤感受性試験を行うが,①薬剤抵抗性の炎症所見(CRPの上昇,vegetationの増大),②心不全の進行,③vegetationによる末梢血管の塞栓症状が生じた場合は絶対的手術適応となる2).ブドウ球菌の感染は組織破壊が強く急速な僧帽弁逆流の進行がみられるため早期の手術適応と考えてよい3).また,感染性心内膜炎を不明熱とし不適切な抗生剤投与がなされたり,あるいは膠原病と診断しステロイドホルモンを投与したりして真菌性心内膜炎に進行した場合も絶対的手術適応と考えてよい(表1).
過去17年間に教室で経験した活動期感染性心内膜炎手術62症例の検討では,60%で起因菌は同定されて,溶連菌45%,ブドウ球菌8%,その他6%であったが,40%の症例では起因菌は同定できず,菌培養陰性心内膜炎(culture nega—tive endocarditis;CNE)であった(表2a).
心不全の進行と手術成績は極めて密接に相関しており,NYHA I〜II度の症例では手術死亡がみられなかったのに対して,NYHA III症例の手術死亡率は6%,NYHA IV症例の手術死亡率は28%にのぼった(表2b).一方,人工弁置換症例で置換した人工弁に感染性心内膜炎が生じた場合(PVE;prosthetic valve endocarditis)は弁周囲逆流が生じ,いわゆる弁輪膿瘍の形態をとることが多く非常に予後不良である.
本稿においては,感染性心内膜炎の外科手術適応ならびに術式に関して概説する.
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