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はじめに
肺結核の治療はストレプトマイシン(SM)そしてそれに続く抗結核薬の発見,開発によって化学療法が主力となった.感染症と抗生物質の関係は「いたちごっこ」と言われるように,強力な抗生物質ができれば,これに対する耐性菌が発現してくる.1944年ワックスマンによってSMが開発され,結核の治療に初めて用いられ著効を示した.当時は結核菌に対する併用療法の考え方がないというよりも,SM以外の抗結核薬はなかったので,SM単独投与であった.そのためにSM耐性菌による再燃,再発,治療失敗例が生じた.その後パラアミノサリチル酸塩(PAS),イソニコチン酸ヒドラジド(INH)などの抗結核薬が開発され,結核の化学療法は併用療法となった.さらにリファンピシン(RFP)が開発され,今までの薬剤と異なり,分裂休止期にある結核菌にも有効であることから,治療成績は著しく向上し,かつ治療期間も短縮することが可能となってきた.
多剤耐性結核とは「少なくともINHとRFPの両者に耐性を示すもの」と定義されている.INHとRFPに耐性であるときには,多くの場合結核治療の主力薬剤であるSMやエタンブトール(EB)などに対しても同様に耐性を示す場合が多く,他に有効な化学療法薬がなく治療に行き詰まることが多い.もともと結核菌にはある一定の比率で薬剤耐性突然変異株(自然耐性菌)が存在する.薬剤を投与することは,すなわち薬剤に接触することによって選択が行われ,耐性菌のみが増殖することになってくる1).多剤耐性肺結核は“man made disease”といわれている.すなわち,初めに多剤耐性肺結核患者から感染,発病したものでなければ,不適切な化学療法を行ったために多剤耐性菌が発現したものと考えられる.したがって,根本的な多剤耐性肺結核の治療戦略はまずこのような“man made disease”を作らないようにしなければならない.ここでは現在考えられている化学療法,外科療法そして免疫療法それぞれの治療戦略について述べる.そして最後に示唆に富む症例を呈示する.
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