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はじめに
慢性肺性心の概念は慢性呼吸器疾患による心臓の障害である.慢性呼吸器疾患は程度の差こそあれ右心負荷となる.代償機転として心臓全体のリモデリング1),特に右室の肥大拡張を来す.この代償機転の破綻は右心不全である.循環系の神経液性因子が異常に活性化する.一般に急性増悪の誘因は感染症,特に気道感染である.ときに右心負荷が急速に進み右室肥大の前に直接右心不全が惹起される.
肺性心の臨床診断は必ずしも容易でなかった.従来肺性心とは病理学的な剖検所見そのものであった.その後,臨床的に右心不全症候をもって診断されるようになった.WHO専門委員会(1961)は肺性心を「肺の機能および/または構造に影響を及ぼす疾患の結果として起こった右室肥大,ただし先天性心疾患および左心障害によるものは除く」と定義した.慢性右心負荷の結果と考えられる病理学的な右室肥大を根拠とし,その心電図基準を作成して臨床診断することとした.しかし,特異性,感受性は必ずしも高くない.すでに笹本ら(1967)は右心機能障害の診断が重要なことを提唱した.NYHAの委員会(1979)は「一次性に肺,肺血管または呼吸によるガス交換を障害する疾患プロセスにより生じた右室の拡張,肥大または不全」とした.右室肥大のみならず右室拡張および不全を含めている.さらなる診断技術の進歩は慢性肺性心の病態をより明確にした.今日では非侵襲的検査や心臓カテーテル法を用いることにより,右心負荷すなわち肺動脈圧,心拍出量その他の循環動態や右室挙動を比較的容易に診断し病態を早期に評価することができる2).
慢性肺性心の病因となる慢性呼吸器疾患は様々である.その種類により右心負荷の様相は著しく異なる.ここでは病因の差異による予後規定因子と治療戦略について述べたい.
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