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はじめに
“右心ポンプ機能の欠如は右心不全をもたらすか?”この質問に答える前にまず魚類の循環模式を見ていただこう(図1).ご覧のように魚類では心臓を出た血液はまず鰓に入り,そこで酸素化された後に組織に至る.すなわち,哺乳類の右心室に当たる単一の心室があるのみである.もちろんこのような循環を可能にするためには,鰓血管系の抵抗が低いことが必要である.心室で発生された圧は鰓でわずかな圧損失をこうむるのみで,ventral aortaで約30cmH2Oの圧を保っており,諸器官への灌流を可能にしている.このような右心室(肺心室)しか存在しない魚類のような循環系では,左室は不要といえるが,右室がなければ右心不全のみならず同時に左心不全も起こってしまう.
次に甲殻類の循環模式図を示す(図2).やはり心臓は一つの心室しか持たないが,心室から送り出される血液はまず頭部および尾部大動脈から組織へと供給され,その後に血管外へと出て(開放血管系)鰓へと向かい,鰓で酸素化が行われてから鰓静脈を通じて心臓に戻る.魚類とは対照的に左心室(体心室)のみが存在するといえる.右心室が不要といえる一例である.
以上の2タイプの循環モデルを眺めて右心室(肺循環ポンプ)の必要性を考えることにする.軟骨魚類では体長が20mを越すジンベイザメのように大型のものもあるが,前述のように,魚類では鰓は心室に直結しているために高い圧によって灌流されているからこそ循環が保たれているのであって,甲殻類のように小型で鰓前後での圧損失がほとんどない場合は拍出心室がなくても循環可能なのはさておき,ヒトのようなサイズの肺が拍出心室なしに循環を十分に保てるかという疑問も当然起こってくる.Bakosが1948年にイヌ右心室自由壁を焼灼して収縮力をなくした際の血行動態の急性変化について報告しているが1),それによると静脈圧,肺動脈圧には大きな変化はみられなかったという.また,右室梗塞の場合には心拍出の低下がみられるが,これは右室の機能低下の結果というよりはむしろ拡大した右室が心室中隔を介して左室を圧迫し,心タンポナーデ様の充満障害を左室に与えるためとも考えられている.
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