Japanese
English
綜説
心臓移植と日本の文化—伝承と変貌
Heart Transplant and Japanese Culture:Change and Succession
波平 恵美子
1
Emiko Namihira
1
1お茶の水女子大学文教育学部
1Ochanomizu University, Department of Letters and Education
pp.365-372
発行日 1999年4月15日
Published Date 1999/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404901879
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はじめに:脳死・臓器移植と問題の所在
心臓移植のような重い医療処置であれ,投薬のような一般的医療処置であれ,医療行為は当該社会の文化と無関係に行われることはあり得ない.なぜなら,医療行為は人の生死や生存の内容に直接影響を与えると考えられているからである.程度の差こそあれ,医療行為は必ずその文化によって規定される身体観や病気観,健康観,病因論などと整合性を保っていると考えられる.
しかし,心臓移植をはじめ脳死・臓器移植をめぐって日本国内で起きた議論は,医療の専門家も一般の人々も,そうたた医療技術と文化の整合性を認識していないことを顕らかにした.むしろ,医療は他の科学的知識や技術と同様のものとみなされており,普遍性の高い,当該の文化とは無関係に実践され得る技術であると,多くの人々が考えていたことを議論の展開は示している.移植医療が文化とは係りを持たないと考える人々にとっては,脳死・臓器移植が順調に推進できないことが明らかになった時,国内における反対意見の表明や反対運動が何を意味するのかを正確には理解できなかったのではないかと推測する.また,1997年10月に長い議論の末に施行されることになった臓器移植法によっても,1998年末の段階では1例の脳死・臓器移植も行われていない状況について,その原因を正確に分析した議論はほとんど見出すことはできない.
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