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リハビリテーションはその国の文化が反映されていると思います.特に作業療法では,治療手段に手工芸を導入し,ADLでは和式の動作を練習するなど日本文化が生かされています.世界も注目する日本文化は,『おもてなし』のこころに始まり,『和食』などの食文化,『和紙』,『着物』,『陶器』,『浮世絵』などの伝統工芸,『法隆寺』,『姫路城』などの日本建築物,『歌舞伎』などの伝統芸能,そして近代技術では,『新幹線』,『スカイツリー』,ノーベル賞を受賞した『iPS細胞』『青色LED』などの研究技術,世界の若者から注目されている『アニメ』,『ファッション』,『アイドル』などの娯楽といったところではないでしょうか.これらが世界から注目されている理由を考えてみました.どれも共通している点は,日本人の『こころの豊かさや思いやり』,『きめの細かさ』,『器用さ』,『丁寧さ』,『正確さ』,『信念』が反映され高く評価され,日本ブランドを形成していると思います.日本で生まれ育った者にとってこれら『きめの細かさ』,『器用さ』,『丁寧さ』,『正確さ』は特別な取り組みでもなく,ごく当たり前に各家庭,学校,社会において身についている能力です.それが,世界からみると美しく素敵であり,日本文化の誇りです.世界が認める日本文化を作業療法にも生かさないわけにはいかないと思います.特に物づくりにおいては今ほど物がなく,また,安く物品が購入できない時代に先達の作業療法士は『治療器具』,『スプリント』,『自助具』は当然のように手づくりで作製し,治療効果を挙げていました.しかし,現在は治療器具や福祉用具が充実し,材料や既製品なども手頃な価格で購入することができるため,創造力を生かした物づくりをしなくても良い時代であることに少々寂しさを感じます.そして,社会にクローバル化の波が訪れ,日本の社会保障の問題で医療情勢も変革するなか,筆者はあえて『物づくり』の良さを継承する意識をもって作業療法に取り組んでいます.世の中が変わろうが日本人のDNAには『物づくり』の才能が組み込まれているため,作業療法の世界でも継承し続ける取り組みをしたいと思っています.これまで筆者は,数千件以上のスプリントや自助具を作製してきました.どれもオーダーメイドで作製するため,『only one』と言っても過言ではありません.スプリントや自助具を作製するためには,医学的根拠に基づいた設計が重要ですが,対象者に満足して使用していただくためには,作製するスプリントや自助具に対象者への思いを込め,『情熱』,『時間』,『信念』を注入した『創造力』が必要です.この『創造力』は,作業療法士個々の人生や生き方のなかで育まれるもので,作業療法が医療の分野で生き残る鍵になるものと考えます.リハビリテーション工学や介護機器の発展や普及により医療福祉分野はこれから大きく変革していくことが予想されます.あらゆるものがデジタル化機械化され,療法士の個性を生かした手づくりの療法が行えない医療環境は寂しく思います.最先端のリハビリテーション工学技術を生かしたリハビリテーションを対象者は本当に望んでいるのでしょうか? 日本文化の中で育まれている『きめの細かさ』,『器用さ』,『丁寧さ』,『正確さ』を温かい血がかよったひとの手で『手当て』をするリハビリテーションが対象者に喜ばれ,作業療法には必要だと考えます.日本の作業療法士数は7万人を超え,アメリカに次ぐ世界第2位の人数です.この7万人もの作業療法士の『きめの細かさ』,『器用さ』,『丁寧さ』,『正確さ』,『創造力』を結集した作業療法は世界に誇れると思います.
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