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はじめに
慢性心不全は,心機能低下により生じる病態であり,末梢組織の代謝需要に応えるだけの血流量を心臓が拍出できない状態,または心室内流入圧の上昇による前負荷増加によってのみ必要な心拍出量維持が可能な状態と定義しうる.さらに,慢性心不全の病態には,このような心臓ポンプ機能の低下のみならず,心機能低下に交感神経系・レニン—アンジオテンシン系などの内因性代償機序により修飾された全身的変化が加わる.つまり,慢性心不全の治療には,心機能の改善を図るとともに,内因性神経・体液因子の過剰代償を是正することが重要となる.後者については,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤1)や,βアドレナリン受容体遮断剤2)などが慢性心不全の生命予後を改善することが多くの大規模介入試験において証明されており,内因性神経・体液因子の賦活化が慢性心不全の増悪因子であることが明らかになっている.
では,前者の心機能改善を強心薬にて図れば,慢性心不全は改善するのであろうか.この仮説を証明するべく1980〜1990年代にかけて,新しい経口強心薬が開発され,慢性心不全の予後改善を目標に数多く治験が行われた.アムリノンやミルリノンなどのphosphodiesterase III阻害剤や部分的βアドレナリン受容体刺激剤は,かえってその生命予後を悪化させると報告され,強心薬による心機能改善は,慢性心不全の予後改善を必ずしも意味しないことが示された3,4).しかしながら,肺うっ血と末梢循環障害という心不全の主要症状は左室ポンプ機能の異常に負うところが大きいため,強心薬により左室収縮力を増大することは,慢性心不全の症状を一時的にしろ改善することは間違いない.では,この改善効果が,どの時点で如何なる機転にて慢性心不全増悪作用に転ずるのであろうか.また,強心薬は慢性心不全の治療という土俵上にあがってくることはないのであろうか.
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