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はじめに:強心薬の背景「長いは悪い?」
現在,本邦において心臓病は死因の第2位を占める疾患であり,その治療は大きな課題である.また,狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患のみならず,拡張型心筋症や心筋炎,弁膜症などの非虚血性心疾患から進展して心臓疾患の死因の大半を占める急性・慢性心不全は,近年劇的な罹患患者数増加に直面しているものの,未だ画期的治療法が確立されていない点から,それらに対する有効な治療法の確立への医学的・社会的要請は特に大きい.
そこで,現在まで様々な治療法の開発が試みられているが,そのゴールはmorbidityおよびmortalityの改善である.心不全の病態にあっては,係る原因の解決に先立ちまずクリアされるべき点として,特に循環不全を伴う急性心不全に対してその維持が,またQOLを低下させるほどの循環機能低下を伴う慢性心不全に対してその機能改善が挙げられる.そのためにまず,種々の強心薬が開発・試用された.これは自然な歴史の流れとして捉えられうる.その結果,初期にはジゴキシンなどの強心配糖体が開発された.経験的に浮腫軽減作用が認められていたこの薬剤の一義的な効果は長い議論を呼んだが,結局Na/K交換体の抑制を介する心筋収縮増加作用と徐脈効果とされている.次いでエピネフリン・ドーパミンやドブタミンなどのβ刺激性カテコラミン製剤,さらには現在の臨床治療においても頻繁に使用され,心収縮力増強作用に加え,強い血管拡張作用を備えたcAMP賦活薬やPDE-III阻害薬が開発された.
しかし,それらの薬剤を長期的に投与した臨床試験では,投薬直後の心収縮機能改善にもかかわらず,いずれも心事故率は変化しないかむしろ増加傾向を示すという,期待に反する皮肉な結果を招いてしまう1,2).逆に,最近の治験では周知のごとくβ遮断薬など,むしろcAMPの作用を減弱する薬剤による慢性心不全の機能予後・生命予後の改善効果がクローズアップされ,「弱った心臓の収縮を持続的・補助的に増強することによる長期治療」はその地位を大幅に後退させた.このような結果を招く原因として,一定時間以上のカテコラミン刺激によるコンパートメンテーションや受容体脱感作など刺激効果の急速な減弱や,不整脈の増加などが考えられているが,明確な回答は与えられていない.しかし係る観点から,これらの強心剤は,急性心不全などの急激な循環動態の悪化を回復させるための短期的なツールとしての立場は別として,最も当初に期待された「長期の心臓保護的な」役割の再考を迫られる形になったことは事実である.
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