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はじめに
1997年4月20日〜25日,デンマークのコペンハーゲンで行われた第18回国際重力生理学会において,ベッドレストまたは宇宙飛行などでヒトが長期間無重力状態に曝露された場合,圧受容器感受性(Barorecepter Sensitivity)は,「上昇する」のか,「変わらない」のか,「低下する」のか,盛んな論議があり,特に心肺圧受容器反射については興味深かった.
「中心静脈圧が低下する条件が生じると心房の動き受容(Mechanoreceptors)は圧反射を引き起こすトリガーの働きをする」とMcDowall1)は,初めて心肺圧受容器反射を示唆した.心臓部や肺動脈部とそれらの血管の領域に所在する動き受容器の一群を総称して心肺圧受容器または低圧受容器という.この受容器は,所在する血管の貫壁圧(Transmural Pressure)の低下を感受してインパルスを発射,自律神経中枢に伝え,交感神経活動を高める.その結果,ヒトの場合は皮膚と骨格筋の血管を標的器官に選び血管収縮を強め末梢血管抵抗を高め,また心拍数を増加させ,血圧を引き上げる(昇圧反射).これは頸動脈洞や大動脈弓などに所在する動き受容器である動脈圧受容器が所在する血管の貫壁圧の上昇を感受すると血圧を下げる反射(減圧反射),反対に貫壁圧の下降を感受すると血圧を上げる反射(昇圧反射)を起こすのと類似している.血圧は,脳の血流量を適当水準に保持する目的をもつ恒常性のある循環変数である.特に,頸動脈圧受容器は直接の監視役を果たしている.例えば,最大運動時でも,心拍出量が安静時の4倍から5倍増加するのに,平均血圧は30〜40%程度しか上昇しないのは,血圧の恒常性を維持するように圧反射調節機能が有効な働きをするからである.しかし,ヒトは長期ベッドレスト後,姿勢を仰臥位から直立に変換すると前に比較し容易に血圧が下降し,失神を起こす.この症状は,中心血流量と循環血流量が著しく消失する出血やショックなど臨床的状態で生じる変化に類似している.20日間のベッドレスト後,この失神を起こす前症状を示すまでの起立耐容能は20%以上低下する2).しかし,何故ベッドレストで起立耐容能が著しく低下するのかについては,圧受容器反射機能が関与するのか,他の要因によるのか,そのメカニズムは未だ不明な点が多い.
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