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■最近の動向 内皮細胞由来弛緩因子(EDRF)は1980年Furchgottらにより発見され,その本体は気体の一酸化窒素(NO)であることが,1987年Moncadaらにより証明された.これまでに報告された情報伝達物質とは異なり,気体であるNOは,細胞間のみならず細胞内を自由に拡散して標的蛋白質に直接作用するというユニークな性質を示す.1990年代前半,NOは3種類のNO合成酵素(神経型,内皮型,誘導型)から産生・遊離されることが示され,生体の恒常性維持のために多彩な役割を果たしていることが明らかにされつつある.すなわち,神経型NOSは心血管系の神経調節に,内皮型NOSは血管トーヌスの調節,リモデリングの抑制,抗血栓作用など血管機能恒常性の維持に,また誘導型NOSは,細菌・ウイルス・異物などに対する生体防御反応の役割に関与している.一方,NOは細胞障害作用を示す側面があり,特に誘導型NOS過剰発現が遷延化すると,心血管系障害因子として作用しうる.このNOの有する二面性が循環器病におけるNOの研究を複雑にしている.
NOに関する研究は,現在までNO合成・作用機序に関するもの,生体各部位における生理作用,病態発現における役割,治療への応用など,極めて広範囲にわたって活発に行われてきた.今後は,生体機能維持調節におけるNOの役割,NOの病態発現への関与・治療への応用などがターゲットにされ,NOSアイソフォーム遺伝子を欠損させたノックアウトマウスや選択的NOS阻害薬・NO合成抑制薬を利用した分子生物学的・分子薬理学的研究が,なされていくものと期待される.ところで,慢性心不全に関して主に血管内皮構成型NOSについての報告が多く,誘導型NOSの役割についてはいまだ十分な知見が得られていない.また,高脂血症,動脈硬化,など内皮NO産生が慢性的に抑制されている病態では,血管内皮機能障害にNO産生低下が関与している事実が知られており,現在このような病態におけるNO・NOS活性の変化に関する研究も進行中である.そこで,本稿では循環器疾患の病態における心血管系NO合成酵素活性変化に関する最近の知見を紹介する.
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