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特集 脳と分子生物学
ショウジョウバエ神経系の分子生物学
Molecular biology of the Drosophila nervous system
松崎 文雄
1
Fumio Matsuzaki
1
1国立精神神経センター神経研究所遺伝子工学研究部
pp.176-181
発行日 1994年4月15日
Published Date 1994/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900721
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この10年間における生物学の最大の進歩の一つは,発生という現象が遺伝子という言葉で記述されるようになったことである。発生学の分野で,この言葉がきちんと通じるようになったのには,とりわけ,ショウジョウバエの貢献が大きいといえよう。1980年代の前半までに,ショウジョウバエでは,前後軸,背腹軸,各体節の形成などの初期発生のおもなできごとを制御する遺伝子の突然変異はおおむね同定しつくされ,その関係が遺伝学的に整理されていた1,2)。そこに分子生物学が導入され,分子的実体が因果関係をともなって明らかにされてきた。驚くべきことに,これらの遺伝子のホモログは,哺乳類をはじめとする脊椎動物にも広く存在し,胚発生に基本的な役割を果たしている。分子レベルに至ってはじめて,節足動物と脊椎動物という系統樹上でかけ離れた生物の形態形成に,共通の原理といえるものが見えてきたことは注目すべきことである。
ショウジョウバエの神経系は脊椎動物とは比べものにならないほど細胞の数が少ないため,遺伝学的な解析に加えて,単一細胞レベルで発生を分析することが可能である。ショウジョウバエが神経生物学の分野でも,形態形成の研究同様に前衛的な役割を果たしうるであろうか。ここでは,ショウジョウバエの中枢神経系の胚発生,とりわけ,神経発生の初期過程と,多様性の形成の分子機構を中心に最近の知見を紹介したい。
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