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はじめに
脊椎動物が空気呼吸を始めたのは約4億年前と考えられている.その時よりサーファクタントの進化の歴史は始まった.最初の肺呼吸生物「肺魚」には,すでにサーファクタントの存在が確認されている.同時に,サーファクタント産生細胞である肺胞II型上皮細胞もこの時期から存在している1,2).
サーファクタントの重要な役割は,肺胞表面の表面張力を低下させ肺胞の虚脱を防ぐことである3).それ以外にも,活性酸素の除去,抗炎症作用など多彩な作用を持つ4).肺胞の虚脱はシャントの増加をもたらし,急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の病態悪化に大きな影響を及ぼす.また,サーファクタントの減少により正常な表面張力を保てなくなった肺胞は,吸気時の開放と呼気時の虚脱を繰り返し,そのシェアストレスが病的肺胞に更なるダメージを引き起こす5).同時に,人工呼吸器管理下では,肺傷害が生じコンプライアンスが低下した部位,または肺胞が虚脱した部位に換気が到達せず,残った健康な肺野に過剰の換気が行われる.その結果,健常肺の圧損傷が惹起されると考えられている(図1).
ARDS症例においてサーファクタントに異常が認められると報告されている6~9).上記のような理由により,サーファクタントの機能異常はARDSの病態をさらに悪化させると考えられる.そのため,動物実験モデルを用いたサーファクタントの補充療法が検討され,その有効性が示唆されている10,11).
この動物実験の結果を踏まえ,様々な施設においてARDS症例に対する臨床治験が行われた.しかし,現在のところサーファクタント補充療法が臨床のARDS症例において有効であるとの明らかなエビデンスは得られていない.
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