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■最近の動向 1986年,Murryrらは短時間の虚血刺激が長時間心筋虚血に対して「予備状態」を形成し,不可逆性心筋障害を軽減することを報告し,この現象をプレコンディショニング(ischemicpreconditioning)と名付けた.いかなる薬剤,interventionも心筋梗塞サイズをこれほどまで縮小することはなかったため,この壊死縮小メカニズムの解明は急性心筋梗塞の新しい治療法の開発につながると考えられている.プレコンディショニング成立の機序については多くの報告がなされている.トリガーとしては,アデノシン,α1アドレナリン受容体,アセチルコリン,アンギオテンシンIIおよびATP感受性K+-channel開口などが報告されている.次に,プレコンディショニングの細胞内情報伝達系に関与するものとして,近年,プロテインキナービCの活性化が重要視されている.すなわち,上記トリガーによりPKCが活性化され,心筋壊死縮小効果が生じると考えられている.近年,私たちはPKCのエフェクターとしてアデノシン産生酵素である膜5'-ヌクレオチダーゼの役割につき報告している.その他のプレコンディショニングによる心筋梗塞サイズ縮小の機序として,長時間虚血中のATP減少の抑制,グリコーゲン欠乏による細胞中アシドーシスの軽減などが報告されている.今年に入り,臨床においてプレコンディショニングが認められる報告がなされている.すなわち,狭心痛を経験している急性心筋梗塞患者はCPK遊出および心不全発症率の低下を認める.以上より,プレコンディショニングの機序解明により,虚血を作らずに虚血耐性を獲得させることが可能となれば,冠動脈疾患の治療が飛躍的に改善することとなり,今後の展開が期待される.
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