Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
心筋が固有の機能である収縮や拡張を発揮できない病態に陥ることを心筋障害と呼び,長い間,この用語は心筋における器質的な退行性病変をイメージしてきた.しかし,近年,急速に展開した分子生物学は,心筋障害のイメージをさらに豊富にしてきている.今日では,心筋障害とは不可逆性を意味する器質病変をさすのみならず,可逆性が期待できる心筋の一時的機能停止や機能低下をも含んでいる.この研究成果は,心筋障害について臨床家が正しい理解と対応を示せば,治療に奏功する心筋障害が多く存在することを教えてくれている.このような心筋障害を惹起する代表的な液性因子がここで採り上げるカテコールアミンである.カテコールアミンは本来ヒト生体内に存在する生理的ホルモンである.このホルモンが,①健常心筋でも過剰状態に陥った場合に,また②不全心筋では恒常的に過剰刺激を繰り返した場合に,心筋障害が発生したり,深刻化すると考えられるようになったのである.前者はカテコールアミン心筋症と呼ばれ古くから知られてきた.後者は不全心筋でのカテコールアミン心筋障害で今日的課題である.
不全心筋に対する基礎研究は,臨床からの強い要請と有力な治療薬の登場によって広い領域でしかも加速度的に展開し始めた.従来から蓄積されている血行動態やエネルギー代謝といったアプローチに加えて,受容体を含めた情報伝達や遺伝子制御が最新の話題である.何らかの原因で発症した急性心不全が克服されるためには,有効な代償機転が働かねばならない.交感神経活動の活性化は急性期に働くこの代償機転のひとつである.しかし,もし心不全状態が何らかの理由で克服されず慢性化すると,この亢進した交感神経活動はそれ自身が心筋障害を助長し,ひいてはポンプ失調を深刻化させてしまうのである1).したがって,交感神経の刺激伝達物質であるカテコールアミンとその受け皿である受容体との関係,さらに心不全時でのこの情報伝達系と心筋代謝との関係について理解を深めることは,心筋障害の治療を目指す臨床家にとって今や必須の基礎知識となってきている.ここでは,そのような観点を含めて,カテコールアミンと心筋障害の問題を掘り下げてみたい.
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.