Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
開胸手術によって受ける肺胞領域の障害の主たる病理組織学的所見は,肺水腫,肺胞炎,肺間質の線維化,終末細気管支の線維化による閉塞などである.臨床的には低酸素血症や胸部X線写真上のびまん性陰影を認める.この肺胞領域の病変は種々の要因が絡み合って生じるものと考えられる.すなわち,手術そのもの(開胸操作,縦隔郭清,肺切除,肺の再膨張)のみならず手術に関連したこと(人工心肺,人工呼吸,高濃度酸素吸入,麻酔,免疫抑制剤,感染など)などが要因になりうる.
胸部手術による肺胞領域の障害として代表的なものとしては肺切除後肺水腫と再膨張性肺水腫があるが,その他のものも含めて表1に示した.なお,本稿では移植肺に認められる末梢気道障害についても触れた.
胸部手術の術操作の中心となるのは,もちろん肺切除(腫瘍切除),縦隔郭清であるが,それにより肺水腫が生じることは古くより知られている.肺水腫は肺胞腔内,肺間質内への水分の蓄積と定義されるが,図1に示したように,この肺内水分蓄積は肺血管から肺間質への水分漏出とリンパによる排出のバランスより成り立つ.しかし,リンパ流量は正常状態の数倍まで達し得る1)ため,リンパ系が安全弁となり種々の原因で生じた過剰の水分漏出が生じても容易には肺水腫とはならない.肺毛細血管を構成する内皮の細胞間隙を通して流入する漏出水分量はスターリングの式で規定され,主に毛細血管静水圧と透過性の因子が重要である(図1).したがって,肺水腫は①内皮の透過性亢進および毛細血管静水圧の上昇による肺間質内流入水分量の異常増加と,②リンパによる水分排出機構の障害,によって生ずることになる.
毛細血管静水圧の上昇は臨床的には過剰輸液や心不全,肺血管床の減少などによって生じる.理論的にはリンパ郭清2)はリンパ系による肺間質からの最大水分除去量を低下させ得る.しかし,図1に示したように壁側胸膜を介した水分除去機構も存在するため,リンパ系の障害をそれ自体では臨床上問題となるような肺血管外水分量の増加は生じないと考えられる.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.