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がん治療の進歩,特に分子標的薬に代表される新しい抗がん剤の出現による化学療法や放射線療法により,がん患者の予後が改善し10年生存率が議論される時代となっている1).その一方で,生活習慣の欧米化とともに急激に高齢化が進むわが国において循環器疾患を合併するがん患者が多く認められるようになった.さらに,日々進歩するがん臨床の現場では,分子標的薬に代表されるがん治療の進歩はがん領域において従来は認めることのなかった心血管系副作用(心毒性)を示す症例を増加させている.その結果,がんと循環器疾患の両者を同時に診療する必要性が生じ腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)という新しい概念による診療が提唱されるようになった2).腫瘍循環器領域において最も重要なことは循環器専門医とがん各診療科医師との連携である.そして循環器専門医が腫瘍専門医,放射線治療医,そして外来化学療法室,薬剤師などの医療スタッフとともに,急速に増加している心毒性に対応することで抗がん剤の投与や放射線治療の適正化がより高いレベルで可能となる3).しかしながら,欧米に比較しわが国ではがん領域における循環器診療は十分理解されているとは言い難い.腫瘍循環器領域における取り組みは始まったばかりであり腫瘍循環器学に関する知識を広めるとともに腫瘍循環器専門医の育成が急務である4).一方,研究レベルでは,がんと循環器領域で病態に共通点があることが,がん治療における作用機序や心毒性の検討より解明されつつある.チロシンキナーゼを介する細胞内伝達系はがん細胞の増殖,転移などに関連する機序の一つであるが,心筋細胞や血管内皮細胞の維持にも関連する.そして血管新生因子阻害薬などの分子標的薬を介する反応は,心不全,虚血性心疾患,動脈硬化の発症に影響を及ぼすことが判明しており,従来は動物実験でしか証明することができなかった病的異常を臨床の現場で検討できる可能性を秘めている.
ここでは,腫瘍循環器領域において国内で活躍されておられる先生方に,それぞれの専門領域で解説していただいた.まず南先生には,腫瘍循環器学の重要性とこれから求められる課題についてわが国の現状を含め概説いただいた.がん治療による心毒性を,CTRCD(cancer therapeutics-related cardiac dysfunction)を中心に青野先生に,血管新生阻害薬の副作用を中心に塩山先生に解説いただいた.また,がんに特化した合併症として窓岩先生に血栓塞栓症についてがんの血栓形成のメカニズムを含め,そして庄司先生に不整脈の特徴と治療を中心に解説していただいた.黒田先生には放射線治療の進歩とともに注目されているRIHD(radiation induced heart disease)について実際の症例とともに臨床的立場から紹介していただいた.さらに循環器医が知っておかねばならない心外膜炎疾患を大倉先生に,心臓腫瘍を北原先生に最新の知見で解説いただいた.最後に,岡先生に腫瘍循環器領域における疑問点をトランスレーショナルリサーチによる基礎的研究を通じて検討することが循環器領域の新しい知見を得るためのシーズとなることを基礎的立場から提案いただいた.わが国の腫瘍循環器学における最新のトピックを,この領域において最先端を走っておられる先生方にご紹介いただいた本特集が,循環器とがん領域にわたる多くの医療関係者の皆様の今後の診療と研究の発展に少しでも役立つものとなれば幸いである.
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