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あとがき
小室 一成
pp.530
発行日 2016年5月15日
Published Date 2016/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205966
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大動脈疾患が増えていると言われている.心筋梗塞に関しては,予防・治療の進歩により,発症率・死亡率ともに減少傾向にあることもあり,大動脈疾患の増加が目立っている.大動脈瘤の発生機序に関しては,冠動脈硬化と似た部分があるものの,一部リスクファクターも異なっており,同じではない.さらにマルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群など,遺伝性の大動脈疾患の発症機序は,動脈硬化とは当然異なっている.マルファン症候群における解離性大動脈瘤の発症機序に関しては,ディーツ博士のTGF-β-アンジオテンシンⅡ仮説が有名である.マルファン症候群は,血管の細胞外基質を構成するフィブリリン遺伝子変異により発症するが,単に構造上血管が脆弱になるだけでなく,フィブリリンへのTGF-βの結合が低下するためにTGF-βが活性化され,血管が脆弱になるという仮説である.動物実験により分子機序を明らかにし,TGF-βの上流に存在するアンジオテンシンⅡ阻害薬(ARB)による治療の可能性を示したばかりでなく,彼はARBを用いた臨床試験を実施し,マルファン症候群の患者において大動脈瘤拡大の抑制を報告した.この一連の研究は,基礎研究から臨床へと結びついた画期的なものと称賛された.しかし最近の大規模臨床試験の結果では,ARBの効果は,β遮断薬と差がなく,その発症機序に関しても再考が求められている.大動脈疾患を予防・治療するには,なによりもまず病態の解明が必要である.
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