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本号の特集テーマは「家族性高コレステロール血症(FH)診療のパラダイムシフト—PCSK9のインパクト」である.今から30年以上前,私が研修医の時,ある内科で狭心症を頻発する患者を受け持った.毎日胸痛があり,1日10錠以上のニトログリセリンを服用していた.角膜輪や黄色腫が顕著であり,アキレス腱は厚く,血中コレステロールは500mg/dl以上あったことよりFHと考えられた.当時スタチンはなく,コレステロールのコントロールは困難であった.私は,狭心症を改善できないものかと他科に相談に行き,まず冠動脈造影をしてもらった.その結果は,3枝とも高度狭窄が多発しており,当時始まったばかりのPCIもバイパス手術も難しいとのことであった.そこで論文を読み,海外では血漿交換療法が行われていることを知り,血液透析を行っていた先生にお願いして,大学では初めての血漿交換療法を開始した.2週間ごとに繰り返したところ,胸痛は徐々に軽減し,1年後にはほぼ消失,冠動脈造影によって狭窄の改善も確認された.当時GoldsteinとBrownが毎月のようにbig journalに論文を出していたが,それに従って,また別の科でLDL受容体のアッセイを行い,その結果をGoldsteinに手紙で報告し論文を書いた.その当時,連携することの少なかった異なる3つの内科を巻き込み,さらにノーベル賞学者とも手紙をやり取りして,一人の患者を診療できたことは良い経験であり,また私が循環器内科医を選ぶ一つの理由にもなった.その後スタチンが出てコレステロールのコントロールは容易になり,PCIの進歩により冠動脈狭窄の治療が進んだが,FHに関しては問題が解消したわけではなかった.最近出たPCSK9阻害薬は非常に強力にコレステロールを低下させることが可能であり,FHの問題も大きく改善することが期待できる.高脂血症治療は確実に進歩していることを実感させる特集である.
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