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カルバペネム耐性菌に関する最近1年間の話題
[1]次元を異にする21世紀の耐性菌問題
薬剤耐性菌は,これまでも感染症治療や院内感染の重要な問題として取り上げられてきていた.ところが,21世紀を境として,この問題は大きな転換点を迎えたのである.20世紀の末までは,MRSAやバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などのグラム陽性球菌の薬剤耐性が問題であり,リネゾリド(LZD)やダプトマイシン(DAP)といった新規抗菌薬の開発が行われてきた.21世紀になって,グラム陰性桿菌の多剤耐性化が主要な解決すべき問題となり,合わせて途絶といえるほどの抗菌薬開発の減少という状況も相俟って,薬剤耐性菌の問題は従来にない危機的な意味合いをもって捉えられるようになってきた.その象徴的なキーワードが,WHOが2011年の世界保健デーで用いた「抗菌薬の効かない時代(Post-Antibiotic Era)」であり,その到来を避けるために,薬剤耐性菌への世界的な対策を呼びかけたのである.
薬剤耐性菌の今日的なもう一つの特徴としては,従来の薬剤耐性菌が弱毒菌であり,感染症の発症はimmunocompromised hostに限定的な日和見感染症であったのに対し,今日の薬剤耐性菌は,大腸菌やクレブシエラといった,いわゆる健常人にも広く感染症を惹起しうる細菌に広がっているという点である.Post-Antibiotic Eraとは,抗菌薬の開発以前の時代のように,「小さなケガなどから生命を脅かす感染症となる」というシンボリックな事象に象徴される概念であり,対象となる耐性菌感染症そのものが日和見感染症ではなく,ありふれた日常の感染症へ広がってきているという事実も認識すべきである.その代表的な多剤耐性菌がカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)である.
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