特別寄稿
市場原理に揺れ動く米国産科医療
李 啓充
1,2
1マサチューセッツ総合病院内分泌部門
2ハーバード大学医学部
pp.707-712
発行日 1999年8月25日
Published Date 1999/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902229
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日米の医療保険体制の違い
本稿の主題は,90年代に入り医療をめぐる経済環境が目まぐるしく変貌している米国で,医療経済の変化が産科医療にどのような影響を及ぼしているかを紹介することにあるが,米国で起こっている事態を理解する助けとして,まず,日米の医療保険体制の基本的相違について述べる。
日米の医療保険体制が最も異なる点は,米国では皆保険制が採用されていず,国民の多くは民間の保険会社が販売する雑多な医療保険を「商品」として購入していることにある。医療保険を購入する経済的余裕がない,あるいは医療保険は必要ないという人々は何ら医療保険を有しない「無保険者」となるのだが,実に国民の7人に1人が無保険者となっている。このように,資本主義の本家米国にあっては,医療の場においても市場原理の原則が貫かれ一見弱者に対して冷たい制度となっているように見えるが,実は高齢者・低所得者に対しては税金により運営される公的医療保険(メディケア,メディケイド)が用意されており,弱者の医療へのアクセスが保証されている。
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