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はじめに
肺線維症(pulmonary fibrosis;PF)の病態生理は,間質性肺炎(interstitial pneumonia;IP)と同様と考えられており,しばしば間質性肺炎・肺線維症として表現される.間質性肺炎・肺線維症のなかで特に臨床的に問題となるのは,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias;IIPs)である.現在,IIPsは,6つのMajor IIPsと2つのRare IIPs,そしてUnclassifiableに分類されている(表1)1).そのなかで特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)は,IIPsの50〜60%を占める主要疾患であり,同時に5年生存率が30〜50%である予後不良の慢性進行性疾患である.このためこれまで肺線維症に対する治療薬の開発は,IPFを対象に進められてきたが,最近まで明らかな有効性を示す薬剤は存在せず,他の呼吸器疾患に比較して治療薬開発が大きく出遅れていた領域であった.その要因として,臨床開発を進めるうえで重要となる臨床試験の評価項目が明らかではなかったこと,さらに臨床効果に繋がる治療標的が明確ではなかったことなどの薬剤開発における根本的な問題が未解決であったことが挙げられる.
2000年代に行われた数多くの臨床試験の結果,IPF治療における主要評価項目として努力性肺活量(forced vital capacity;FVC)が有用であることが示され,さらに細胞分子病態研究の結果,抗炎症薬ではなく抗線維化薬の視点からの開発が進められるようになった.その結果,2008年にピルフェニドンがIPF治療薬として世界に先駆けて本邦で承認されたのは特筆すべき成果である.しかしながら,ピルフェニドンの治療標的は明確ではなく,その後の薬剤開発に標的分子という観点からの貢献は限定的であった.一方,がん領域での分子標的治療薬の急速な進歩から,その概念が肺線維症治療の分野にも応用されることが待望されるなか,2014年に血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor;PDGF),線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor;FGF),血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)の受容体に対するマルチキナーゼ阻害薬ニンテダニブのIPFに対する第Ⅲ相臨床試験であるINPULSIS試験の結果が発表された.その結果はニンテダニブのIPFに対する有意な進行抑制効果を示すものであり2),同年10月米国FDAに薬事承認されるに至った.IPF治療薬の開発もようやく分子標的治療の時代を迎えつつあると言える.本稿では,現在開発が進められている肺線維症治療の標的分子と開発の現状について概説する(表2参照).
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