Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
1980年,厚生省特定疾患「間質性肺炎」調査研究班において「原因不明のびまん性間質性肺炎および肺線維症」の名称が特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia;IIP)に統一された.病変の本質を肺胞隔壁の炎症,すなわち間質性肺炎とするものであり,線維化は慢性炎症の結果として生じる病態と理解されていた.一方,日本,米国,欧州におけるIIPの疾患概念に対する認識とその名称が異なっていることから,相互の理解および国際的な共同研究の遂行に大きな問題があった.このような問題点を克服するため,2002年8月,米国胸部疾患学会(ATS)および欧州呼吸器学会(ERS)による合同委員会においてIIPのコンセンサス・ステートメント1)が発表された.これを機に日本においても疾患分類と診断基準の見直しが進められ,国際的整合性を図るために国際分類に沿った形に改訂された2).その結果,表1のように原因不明の間質性肺炎・肺線維症は7つの疾患に分類され,特発性間質性肺炎という名称はこれらの総称であるとの理解からIIPsとして複数形で表記されることになった.
一方,IIPsの病態解析は,臨床的に頻度が高く,またその5年生存率が30~50%と予後が悪いという疾患の性格から特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)を対象に進められてきた.臨床的には,慢性炎症を重視する考え方に基づき,治療薬としてステロイドや免疫抑制剤が使用されてきた.しかしながら,IPFに対する抗炎症療法の治療効果はほとんどなく,新たな治療薬の開発が待たれているのが現状である.このような臨床的な経緯とあいまって,2000年代初頭から慢性炎症というよりは,むしろ繰り返す肺胞上皮障害とその異常修復が疾患の本態であるとする仮説が支持されるようになってきた3,4).この異常修復の過程で中心的な役割を果たすのは,肺線維芽細胞と増殖因子であり,その増殖,分化,細胞外基質の産生に対して直接作用する抗線維化薬の開発が進められている.このような背景には,分子生物学的手法により詳細な線維化メカニズムが分子レベルで解明され,抗線維化療法における標的分子の同定が進んだことが大きく貢献している.
本稿では,このような分子生物学的アプローチから得られた新たな疾患概念もまじえ,肺線維症の細胞分子病態について概説したい.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.