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一回心拍出量が大動脈圧に大きく影響されることが明らかにされ,後負荷軽減が心不全の治療に広く用いられている。1985年砂川らはframework of ventriculoar-terial coupling (以下framework)なる概念を提唱し,心室動脈間の相互関係の解釈に新たな視点を提供している1)。これは,動脈系を定常状態における収縮末期圧(Pes)と一回拍出量(SV)の比で表される弾性値(動脈容積エラスタンス:Ea)を持つ弾性体と考え,心室を可変弾性体と解釈する菅ら2)の概念と結びつけ,心室と動脈との関係を収縮末期における弾性体間のエネルギー平衡という熱力学的立場から解釈するものである。
すなわち,Eaおよび心室特性として拡張末期容積(Ved),容積切片(V0)および収縮末期エラスタンス(Ees)が与えられれば,図1に示した心室圧容積平面上の幾何学的関係から,Pesおよび収縮末期容積(Ves),したがってSVが定まる。図上Ved, Ves, Pesで定まる長方形の面積は心室の外部仕事量(WE)に相当し,Eaにはこの半分のエネルギーが転送される1)。またV0, Ves,Pesで定まる直角三角形の面積は,収縮末期に心室に留保されたエネルギーに相当し,等容拡張期に心室筋内で熱として失われること3)から内部エネルギー(WI)ということができる。これら2者の和は,心室が—回の収縮弛緩過程で消費する機械的エネルギー(WM)に相当し,菅はこの面積をPressure volume area (PVA)と命名して,それが心筋酸素消費量に比例すると述べている4)。frameworkはPVAすなわちWMおよびその2構成要素WE,WIをEa, Ees, VoおよびVedの4パラメータで近似計算可能とする理論である。4者のうちVed,Voは長方形,三角形の底辺の和を規定する一方,その分割(Ves)と高さ(Pes)はEesとEaの相互関係によって決定される。本文では,frameworkが心室動脈間の熱力学的関係を正しく表すとの前提に立ち,任意のEes-Ea関係においてWM,WE,WIが如何なる変化を示すかを理論的に考察した。
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