Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
人体は約60兆個,270種類以上の細胞によって形成されていると言われている。そして,種々の細胞は多様な組み合わせよって臓器・組織を形成し,個体を成立させている。臓器・組織は構成要素である細胞が糖質,脂質,蛋白質などの栄養素をエネルギー源として活用し機能することで,生命活動の維持に寄与している。一方,閉鎖空間である個体において利用できるエネルギー量は有限であり,個体レベルでのエネルギー代謝調節が適切になされることが,個々の臓器・組織,ひいては細胞が円滑に機能するために重要なことである。そして,臓器間ネットワークが,その調節に必須の役割を担っていることが示されてきた。古くは,クロード・ベルナール(実験医学序説の著者)が,個体レベルの糖代謝調節が神経支配のもとにあることを示唆したが,その後,インスリンやグルカゴンなどホルモンの発見が相次ぎ,臓器間ネットワーク研究は内分泌系において飛躍的に進展した。一方,近年の分子生物学的,発生工学的手法を用いた動物実験の進歩により,自律神経を介した臓器間ネットワークの重要性が再認識されてきている。
臓器間神経ネットワークの統御中枢である脳は,個体レベルの糖・エネルギー代謝を制御するために,末梢の各臓器・組織で生じる代謝の変化を感知,統合し適切な出力に変換している。レプチンの発見は,このような脳が統御する臓器間神経ネットワークの理解を進展させる端緒となった。レプチンは主に白色脂肪細胞から分泌され血流を介して視床下部に作用し,摂食抑制や交感神経系活性化によるエネルギー消費増加(褐色脂肪組織での熱産生亢進)などをもたらすアディポサイトカインである。これらの作用は視床下部の弓状核のNPY/AGRPニューロンやPOMCニューロンに存在するレプチン受容体を介して,メラノコルチン系を活性化することで得られる。レプチンの産生は脂肪細胞の中性脂肪の蓄積(=貯蔵エネルギー量)増加に相関して増えるため,長期的なエネルギー代謝の恒常性維持に役立っている。
Copyright © 2014, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.