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肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は遺伝性素因に基づく疾患とされているが1,2),その異常肥大の発生機序は解明されていない。しかし,1)交感神経系の異常を伴う疾患にHCMが合併すること,2) Norepinephrineの注入により実験的にHCMに類似した病態を作製しうることなどにより,Goodwin3)は以前より,その発症にカテコラミン,交感神経系が重要な役割を果たしている可能性を指摘している。そしてPerloff4)は,HCMの原因として胎生期の交感神経,カテコラミン系またはその受容体の異常が心筋細胞の配列の乱れを引き起こし,出生後次第に異常肥大を発現してくるものと推測している。しかし,HCM患者の交感神経,カテコラミン活性についてはいまだ明確な結論は得られていない。例えば,Dargieら5)は閉塞性肥大型心筋症の血中norepinephrineレベルは高値であったと報告しているが,我々の検討6)では非閉塞性肥大型心筋症と年齢,性をマッチした対照群との血中norepinephrineレベルには有意差は認められなかった。また杉下ら7)は対照群に比べHCMのnorepinephrineはむしろ低値であったと報告している。一方,心筋内norepinephrineに関してもPearse8)は閉塞性肥大型心筋症の心筋内の交感神経やnorepinephrine含量が増加していると報告したが,しかし,その後McCallisterら9),Van Noordenら10)はこれに否定的な見解を示している。またKawaiら11)の生検標本を用いた心筋内norepinephrineの検討でも,本症の心筋内norepinephrineは必ずしも高値ではなく,交感神経,カテコラミン系の活性亢進がHCMの異常肥大を誘発している可能性は少いものと考えられる。
これに対して,HCMのアドレナリン受容体の感受性の検討では,教室のKogaら12)は,先にHCM患者ではepinephrineに対する心血管系の反応性が亢進しており,β受容体の機能が本症の異常肥大の成因と関連している可能性を示唆した。またIidaら13)もHCM患者ではisoproterenolに対する心血管系の反応性の亢進を認め,筆者らと同様な成績を報告している。このように,HCMでは交感神経機能の異常よりもむしろアドレナリン受容体機能が亢進しており,これが本症の異常肥大の成因として重要なものと推測される。一方,Simpson14)や教室の犬塚ら15)の培養心筋を用いた心筋肥大の検討では,α刺激が心筋肥大に重要な役割を果たしており,β刺激単独では心筋肥大は惹起されていない。したがってHCMの異常肥大にもβ受容体とともにα受容体が重要な役割を果たしている可能性が強いものと考えられるが,HCMの臨床例でのα受容体機能はいまだ検討されていない。そこで本検討では,norepinephrineに対するHCM患者の心血管系の反応性を検討し,本症でのα,βアドレナリン受容体機能の検討を試みた。
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