Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
代謝性の酸塩基平衡障害を論ずる場合,いつも問題とされるのは代謝性因子を表わす指標として何を用いるかという問題である。呼吸性因子としては,Pco2を指標とすることに異論はない。しかし代謝性因子については,〔HCO3−〕p,BB (buffer base),BE (base excess)などが挙げられているが,いずれにも異論があって,決定的な指標となりうるものがない。BEをめぐるAstrupらと,Schwartzらの論争1)2)3)からすでに6年をへたが,BEに対する評価はその後低下もせず,かといって上昇もせず今日に及んでいる。
代謝性の調節因子は,非呼吸性non-respiratoryとも呼ばれるように,呼吸性調節因子以外のすべての調節因子を包含したものである。だから,この中には多くの化学的緩衝系と,多くの電解質と,多くの代謝系の関与を含み,さらに腎の臓器機能も参加する。そして代謝性調節は細胞外でもまた細胞内でも行なわれ,細胞内で行なわれている調節について,まだごくわずかしかわかっていないのが現状である。代謝性調節という,このように複雑で未知なものを,血液測定によるたった一つの指標で表現しようとすることが,基本的に無理なことなのである。Schwartzらの主張の根底にあったものは,このような代謝性因子を表現するものとして,血液の一測定値である限り,それがBEであれ,〔HCO3−〕pであれ,ほとんど同等の意義しか持てないのではないかという点であった。しかしSchwartzらの烈しい攻撃にも拘らず,BEはなお多くの研究者によって支持され用いられている。その理由は,BEが「血液」の酸塩基平衡の状態を表現する方法に関する限り,もっとも優れた方法であることに間違いないからである。BEはVan Slyke以来「血液」を対象として研究してきた初期酸塩基平衡学の1つの到達点であるといってもよい。その意味でここではまずBEの意義と限界から述べることとする。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.