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はじめに
過剰の負荷overloadにたいして心臓は心筋の収縮機能亢進hyperfunction,および心筋肥大myocardial hypertrophyをもって適応し,その機能を代償しようとするが,さらに負荷が大きくなるか長期にわたり持続すると,心筋はやがて疲労するか心筋障害におちいり,心不全cardiac failureになることは当然の現象である。今回著者に与えられたテーマ「心筋肥大の代謝」は,上述のoverloadに対する心臓の適応現象全体における一つのprocessとして論ぜられなければならない。Meersonら1)2)およびBadeer3)の最近の綜説にならい便宜上次の三つの段階に分けて考察する。
1)first stage……hyperfunctionの時期で過負荷発生から心筋肥大成立まで。
2)second stage……心筋肥大成立によるいわゆるstable hypertrophyの時期。
3)third stage(final stage)……肥大心筋が疲労または障害におちいるいわゆろ心筋不全の時期。
しかし上記の区分はあくまでも概念的な分け方であって,各stage間に実際上はっきりした線をひくことはできない。
心筋能は基本的には心筋における生化学的反応,すなわち代謝により維持されており心筋肥大,および心不全は当然その根底に生化学的変化を有すると考えなければならない。生化学的過程はエネルギー産生とエネルギー利用の面に大別され,この両者が心筋肥大発生機構,心不全発生機構のなかでどのように関連しあっているかについて考察を行なう。また心筋代謝障害が代謝性疾患および内分泌系疾患の場合は当然であるが,心臓弁膜疾患や高血圧性心疾患等のいわゆる非代謝性心疾患である過負荷性心疾患のhyperfunctionおよびhypertrophy,さらに心不全の代謝変動が今日の関心事であろう。したがって本稿では非代謝性過負荷時の心筋代謝について検討する。非代謝性過負荷時の心筋肥大は最初物理的機械的刺激が加わり,それにより心筋に生化学的変化が生じて肥大がおこる。かかる生化学的変化をおこす直接の因子である物理的刺激は心筋収縮張力myocardial cont—ractile tensionの増大であると考えられており,心臓を球と仮定して心筋張力がLaplaceの式であらわされている4)〜7)。すなわち心筋平均収縮張力mean systolic contractile tension(T)は次の式であらわされる。
(式省略)
したがって,first stageに血流抵抗が増し心室内圧(P)が大きくなるか,心室が拡張してγが大きくなるか,あるいはPもγもともに大きくなれば心筋収縮張力(T)は明らかに大きくなり心筋肥大の刺激となる。しかし心筋肥大がおこりはじめると,心室壁の厚さ(δ)が増してTは小さくなり正常値に近づき,second stageには理論的に正常値に戻るが,実際上は過負荷が進行性であるか,あるいは長期に亘り持続するので心筋収縮力(T)も大きくなる。しかしある限界をこすと血管の新生,および酸素供給がともなえず心筋は酸素および栄養の欠乏状態になり,疲労または障害におちいるため無限に肥大することはできず,ついに心筋不全すなわちthird stageにおちいる。非代謝性過負荷の心筋代謝変動を追求するまえに,正常心筋のmetabolic dynamicsについて簡単に考察することは,本題の理解に役立つと考えられるので正常心筋の代謝に簡単にふれることにする。
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