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心筋への物理化学的あるいは遺伝的異常に伴う負荷に対して心筋細胞の肥大が起こり,一時的にせよ心機能を維持するように働く.しかし,病的な心筋肥大は心筋細胞の肥大と収縮力の改善とともに,心筋組織の再構築(リモデリング)を惹起する.線維化や心筋細胞の配列異常を含む組織構築の異常な改変は,心筋機能に直接影響を及ぼし,心不全の予後規定因子として最重要なものとなる1).実際,ACE阻害薬などの神経内分泌系の過剰な活性化を抑制する薬剤が心臓リモデリングを抑え,予後を改善する結果が臨床試験によって示されている.これに対して,心筋収縮力を直接に改善する薬剤は短期的には心機能を改善するが,長期的には心不全の予後にむしろ悪影響を及ぼすことが知られている.
心筋のリモデリングは心筋細胞のみによって進められるものではない.心筋細胞に加えて,線維芽細胞や血管細胞,さらにマクロファージなどの免疫系細胞の相互作用によって進行する.したがって,心筋細胞機能の改善だけではなく,総合的に組織としての心筋の機能維持・改善を図るためには,心筋リモデリングに働く様々な細胞の活動と制御のメカニズムの理解が必要となる.
遺伝子改変マウスのテクノロジーの進歩により,動物個体において特定の細胞の遺伝子機能を操作することが可能となっている.すでに,ある細胞,例えば心筋細胞のみの遺伝子機能改変が細胞間相互作用の異常を引き起こし,その結果として心筋リモデリングを進行させることが多数の遺伝子に関して示されている2).また,細胞が活動する場を提供している細胞外基質(extracellular matrix,ECM)の異常が心筋機能に甚大な影響を与えることも明らかとなっている.つまり,心筋機能の維持は多様な細胞と,細胞を取り巻くECMなどの環境との絶え間ない相互作用によって維持されており,このような細胞や環境因子からなるネットワークの擾乱は,さらに他の細胞をも引き込み,心筋組織改変の引き金を引くと考えられる.一方で,細胞内の情報伝達,そして細胞の運命・機能を最終的に決定する遺伝子発現制御に関しても研究が進展しており,環境からの刺激(environemental cue)がどのように細胞へ影響するかが明らかにされつつある.
本稿では,心臓線維芽細胞の活性化と機能調節の観点から,特に線維芽細胞と心筋細胞との相互作用および核内の転写制御に焦点を合わせて心筋リモデリング・線維化のメカニズムを考えたい.
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